瞬きの星

10

「あれって、富士山か。」
両手に握る、白いソフトクリームを持って車へ振り返ると。その間に見える、大きな山が目に入った。
一体、どこまで来てしまったのだろうか。
そう思わずにはいられなかった。
が、この旅は未だ終る様子はないらしい。

男は僕の言葉を聞くと何かを呟き、車の中へ入ってしまったのだ。
差し出すソフトクリームを睨みつけながら。
「早く食え。出発するぞ。」
「次は、富士山だ。」
と、そういって。車のドアは閉められ、僕と白いソフトクリームだけが外の冷たい空気の中に取り残された。
ただ、濃厚すぎるそのミルクが昨日の夜から何も食べていない僕の口の中にまとわりついた。
「訳がわからない。」
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