くれむつの恋
6鐘


「この道好きなの?」

 手に猫じゃらしを持った彼女が、坂の上で町を眺めていた青年に話しかけた。
 青年は、驚いたように彼女を見た。彼女をどこかで見たような気がしたのだ。
 しかし、そんなはずはないと、青年はすぐに思った。そして一言だけ呟いた。

「うん」

 すると彼女は顔をほころばせた。

「私もこの坂道好きなんだ。なんだか懐かしい気持ちになるの!」

 青年は驚いたように、わずかに目を見開いた。

「俺も、何か懐かしい気がするねん」

 そう呟いて、嬉しそうに微笑んだ。
 彼女はその笑顔を見て、何だか無性に泣きたくなった。
 何故かは分からなかった。だけど、涙が溢れそうになったのだ。

 ずっと迷子になっていて、やっと母親に見つけてもらえたような、そんな気持ちがした。
 逢いたかった人に、やっと逢えたような、そんな気持ち。
 彼女はそれを悟られまいと、わざと明るく声を上げた。

「関西弁だ。引っ越してきたの?」
「うん。昨日越してきて、昨日散歩に出たらここを見つけたんや」
「そうなんだ……どこの学校に通うの?」

 彼女がそう聞くと、青年は彼女の制服に指を指した。

「同じとこ」

 彼女は驚いて声を荒げた。

「本当!?」

 その彼女に少年はこくりと首を縦に振った。
 彼女は何だか嬉しくなって、右手を差し出した。

「私、猫田葉子」

 差し出された右手を、青年は掴んだ。

「俺、中山時人。よろしくな」

 握手をかわず二人を夕日が優しく照らし出す。
 その時、さあっと優しい風が吹いて、
 付近にはないはずの草原の匂いが駆け抜けた。

 二人は自然と見詰め合った。
 そして、どちらともなく微笑むのだった。


       完。

< 11 / 11 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:2

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~

総文字数/97,712

ミステリー・サスペンス102ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
山荘で開かれる交霊会で起こった惨劇。それに呼応するように怪奇現象が起こり始める。ミステリーホラーここに開幕! 注意・この作品は怪事件捜査クラブの続編ですが、とあるところに応募するにあたり続編ぽくなく書きましたので、ドッペルゲンガーの件については触れていません。 なので、前作を知らない方でも問題なくお読みいただけると思います。 ちなみに年代も今作と前作では違っています。
レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

総文字数/243,425

ファンタジー217ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
『 悲劇と希望の物語 』 私の中におっさん(魔王)がいる。の番外編になりますが、この作品単体でも問題なく読んでいただけると思います。 悲劇が書きたくて書いたので、ハッピーエンドがお好きな方はご注意を。 一応、救いはあります。(あるはずです) 竜王機関がなぜできたのかが解ります。
私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

総文字数/195,864

恋愛(その他)148ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
三条の屋敷、センブルシュタイン城でお世話になることになったゆり。 そこで知る三条家に隠された真実とその本懐とは? 前回のあらすじ。 五人の男に呼び出され、異世界へやってきたゆり。ゆりの中に入ってしまった魔王を手にするために彼らに恋に落とそうと目論まれる。だが、そのことを知ったゆりは反撃に出て、魔王は自分のものだと宣言する。しかし、そこに襲撃者が現れ、魔王を宿す者を殺すと言う。突如始まった戦いに戸惑うばかりだったゆりだが、謎の音によって全員がピンチに陥った。みんなを助けたいと願ったゆりに魔王の力が呼応したが、それぞれ別々の地へ飛ばされてしまう。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop