【短編】君ノ記憶
しばらくして薄桜が戻ってきた。

後ろに誰か四人従えている。

「あの、秋篠様…?この方たちは…」

「同族だ。…蛍火」

薄桜が呼ぶと、四人のうち一人が顔を上げた。

「蛍火様!」

紛れもない、火影の知る蛍火だった。

「お久し振りね、火影ちゃん」

「どうして蛍火様がここに?」

蛍火が薄桜をちらりと窺う。
呼び出されてそのままここへ来たために状況が上手く飲み込めていなかった。

「話して構わん。…だが、なぜお前はこいつに接触していた?」

「話には順番があるでしょう?薄桜」

蛍火の勝ち気な笑みに薄桜が押し黙る。

そこへ、いつのまにか入って来ていた焔が口を挟んだ。

「先に他の者を紹介してやったらどうだ」

確かに、蛍火以外の三人は一言も話していない。
実際に火影も段々申し訳なくなっていたところだった。

「この俺が紹介するのか。──面倒だ。自分で名乗れ」

その言葉にこれまたいつのまにか入って来ていた深紅が呆れ顔でため息をつく。

「それでも秋篠の頭領かよ…」

「やかましい。早く名乗れ」

薄桜がそう言うと、焔が一歩前に出た。

「きちんと名乗らずすまなかった。春月 焔、春月家の頭領だ。以後よろしく頼む」

「よろしくお願い致します…」

そうこたえたものの、状況が読めないのは変わらない。

「では、次に私が。風雅 火衣と申します、よろしくお願いしますね」

翡翠の目をし、金髪を緩く下で結んだ男が火影に微笑んだ。

またぺこりと頭を下げる。
すると今度は藍の目をした黒髪短髪の男が前に出た。

「俺は朱雀 火純だ。よろしくな」

「俺、水鳥 千火!千火で良いぜ!」

可愛らしい紫の瞳に灰色がかった瞳の青年。

そして、蛍火が前に出た。美しい黒髪が靡く。

「火影ちゃんは下の名は知ってるわよね。知恩 蛍火です」

蛍火の萌黄の瞳が嬉しそうに細められる。

「ところで薄桜。煌はどうしたのですか?この場に煌がいないと頭領が揃わないではありませんか」

火衣が不満げに薄桜に抗議する。

「何を言っている。煌ならさっきからそこにいるではないか」

淡々と述べる薄桜に火衣は怪訝な顔をした。
他の六人はというと、またかとげんなりした表情だ。

「何言ってるのさ火衣くん。僕はここだよ」

ガタン、と音がした。

天井の板が外れ、人が降ってくる。

「きゃあ!」

「騒ぐな、やかましい」

またしても悲鳴をあげた火影に薄桜が一喝。

「こんにちは、女。初めまして。僕は大地 煌だよ」

金茶の髪に浅葱色の瞳の見目麗しい男がにこりと微笑む。

「煌、この俺の家に忍び入るとは…貴様、死にたいのか?」

「そんなわけないじゃないですかー?近道しただけですよ」

「ほう、近道と抜かすか。貴様の言う通り死へには確実なルートだな」

口論が始まりそうな予感がして、焔が二人の間に入った。

「本題に戻らねば」


両者が沈黙する。











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