【短編】君ノ記憶
「さて、聞かせてもらおうではないか。夏焼 火影」

薄桜はずんずんと歩いた先の部屋にどっかりと座り、戸口に佇む火影に尋ねた。

美しい紅の瞳が火影を映す。

「入れ。そして俺の前に座るのだ」

火影はおとなしく頷き、薄桜の前に綺麗な動作で正座した。

「貴様、何者だ?」

単刀直入に聞かれ、一瞬理解できなかった。

「何者…まさか、名前を忘れたとは言わないでしょうし…」

本気で分からないと言うように困った顔をしている火影を見て、また薄桜がため息をついた。

しかし特に何かを言うわけでもないので火影の焦りを煽る。
数秒間見つめ合ってからようやく薄桜は口を開いた。

「分からないのか?あの状況が異質だと」

あの状況、というのは無論火影の城でのことだろう。

「さあ…私が物心ついた頃にはああだったのでよく分かりません。確かに他の姫君と私は少し違うと思っていましたが…」

家臣は姫君につくものと聞いていたが、火影にとって彼らは恐ろしい存在だった。

「でも、蛍火様がよく会いに来てくれていました。私を普通だと言ってくれました」

「…蛍火?」

ぴくりと眉を動かした。

「貴様、蛍火が何者か分かっていて話しているのか?」

「え?」

「自覚が無いのか…」

薄桜はまた一際深いため息をつき、部屋を出ていった。










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