ラブエンゲージと甘い嘘
この手を掴んでいいの……?

私はなかなか彼の手を取ることができない。

「嫌なら無理にとは言わない。ちゃんと慰謝料を……」

「お、お願いします」

私はとっさに、その大きな手を両手で握り締めていた。

はっ……咄嗟に握ってしまった。しかし離そうとしたが、相手にぎゅっと握られて離れることができなかった。

それどころか、そのまま強く引っ張られて彼の広い胸へと抱かれる。初めて嗅ぐフレグランスの香りにドキリとした。

「交渉成立……慰謝料分はしっかり働けよ」

そんな私の戸惑いを見透かしたような彼は、私の耳元で恐ろしいこと口にした。


私、浦沢(うらさわ)つむぎは、世の中の神様は私の存在など忘れてしまったのだと、この日悟ったのだった。
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