ラブエンゲージと甘い嘘
『つむぎ。ちゃんとこっちに向かってる?』

「うん。言われた通りおしゃれして出発してる」

ちょっと遅刻しそう……だとは言わない。

『よかった!全然乗り気じゃなかったから心配してたんだ。遅刻しないで来てね』

「うん。わかった」

通話を終えた私は、急いでタクシー乗り場に向かう。遅刻するなと釘をさされたのだ。やはりタクシーで向かうしかない。

急ぎ足で駅前にたどり着くと、そこに一台のタクシーが止まっていた。時間的なものなのかほかのタクシーが見当たらないので「ラッキー」と思い乗り込もうとする。

——ドンっ!

「痛いっ!」

「あ、すみません」

右半身に鈍い痛みがと衝撃が走る。驚いていて衝撃が与えられた方を見ると、そこには長身の男の人が私を見降ろすように立っていた。

ぱっと見ただけでも、かっこいいことがわかる。

きちんと整えられた少しだけ茶色がかった髪。涼しげで切れ長の瞳は高潔な感じがする。高い鼻に整った薄めの唇。どこをとっても見とれてしまうほどだった。
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