あのね、先生。-番外編-

「絵の具?」

「うん、あたしが学生の頃は蓮くんの近くにいるといつでも絵の具の匂いがしてたのに、今はしない」

少し寂しいな。

遠くに来たからなのか、中村さんと吉野先生がいるからなのかは分からないけど、学生時代のことを思い出した。

″先生″って呼んでたことも。

「んふふ、俺さ、今度家で新しい絵描こうと思ってるんだよね」

「え?」

「あの時と同じように、茉央ちゃんが隣で見ててくれたら嬉しい」

こんな風にふと思い出して寂しくなるのは、きっと毎日会えて2人いれる空間がすごく幸せで、甘かったから。

だからって今が幸せじゃないかっていえば、そうじゃない。

今、すごく幸せだよ。


「あの頃と何も変わんないね」

「…うん、そうだね」

「でも戻りたいって思っちゃうよね、たまに。そんなもんだよ、きっと」

「え?」

蓮くんもあたしと同じ?

たまに、無性に学生時代に戻りたいと思うのは、あたしだけじゃない?
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