あのね、先生。-番外編-

それは申し訳なかったけど、中村さん達のためならと蓮くんの背中に抱きついた。

「あ、中村さん」

「あ?」

「なかなかないよね、こんな機会」

「…うっせ」

中村さんはきっと、またこんな機会があるからいいかと、色々先延ばしにしてしまうだろうから。

釘を刺しておいた。

歩き出した蓮くんの背中で、後ろから中村さんのため息が聞こえてきて思わず笑みが溢れた。


「大丈夫だね、きっと」

「んふふ、そうだね。茉央ちゃんが中村先生の背中押してくれたみたいだし」

「中村さん自分のことになると鈍感だし、放っておくの不安だもん」

蓮くんの首元にギューッと抱きつけば、洗剤の匂いとか蓮くん自身の匂いとか、胸がいっぱいになった。

学生の頃は絵の具の匂いもしてたのにな。

今はもうそれも忘れてしまいそうなくらい、時間が経った。好きだったのに。

「絵の具の匂いしないね」
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