俺様紳士の恋愛レッスン
「ジョルジオ・アルマーニ」



3メートル先から、凛と響く低い声。



「アクア ディ ジオ プールオム」



それは、呪文のように紡がれる。



「昔からずっと、この香水です」



彼が微笑んだ、その瞬間。

私の脳は、完全に堕ちた。



「……ありがとうございます。呼び止めてすみませんでした」

「いえ。では、失礼します」



再び緩やかな笑みを残して、チャコールグレーの影は去っていく。

その背中が点となって消えるまで、私はその場で固まっていた。



「……どうしよう」



こんな気持ちは、いつぶりだろうか。



「まずいって、コレ」



治まるどころか、どんどん切迫する脈に耐え切れなくなって、



「どうしてくれんの! イケメン!」



顔を歪め、その場で叫んだ。

並木道を行き交う人々の視線など、ご乱心の私には全く気にも留まらなかった。
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