俺様紳士の恋愛レッスン
「エンちゃん帰ろう」

「あっ……うん」



タカちゃんは私の返事も待たずに踵を返し、足早に家へと向かう。

慌ててその背中を追うけれど、慣れないタカちゃんの後ろ姿に緊張が高まっていく。



「エンちゃん」



やがてアパートの前に着くと、タカちゃんはこちらに向き直り、私を見据えた。



「最後の展覧会、エンちゃんのために頑張るから」



一切の微笑も含まない、摯実な視線に息を呑む。

初めて見るタカちゃんの表情には、痛い程の強い意志が浮かんでいた。



「……うん」



堪らず視線を落とし、胸の苦みを誤魔化すように缶を手の中で転がす。

知らず知らずに強く握りしめていたらしい缶の側面は、少しへこんで歪んでいた。




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