好きだからキスして何が悪い?
「よかったね、彼が来て」


微笑みながらそんなことを言うから、意外といい人?なんて単純に思ってしまう。

ぽかんとして見ていると、彼は突然身体を屈め、私の耳元に顔を近付けてこう囁いた。


「……その浴衣、乱してやりたかったのに残念だ」

「っ!?」


ゾクゾクッと背筋に悪寒が走る。

前言撤回……

この人、普通に悪いヒトだったー!!

卑(いや)しい笑みを浮かべた男は、ひらひらと手を振ってどこかへ去っていく。


「最低な奴だな……よかった、間に合って」


息を吐き出しながら言う琉依くんに、肩に手を置かれた瞬間、反射的にビクッと身体を跳ねさせた。


「あ、ごめん……!」


ぱっと手を離して、申し訳なさそうにする琉依くんに、はっとした私はなんとか笑顔を作ってみせる。


「ううん! ありがとう、助けてくれて……わっ」


凍りついたように動けずにいた身体を離そうとしてふらついた私を、琉依くんは腕を掴んで支えてくれた。


「菜乃ちゃん、大丈夫?」

「あは……ごめん。安心したら力抜けちゃったみたい」

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