好きだからキスして何が悪い?
ぱっと開いた目には、下駄の鼻緒が映る。

その目線を後ろに向けると、私の手首を掴んでいたのは……

初めて見る、怖い顔をした琉依くんだった。


「琉依、くん……!」

「勝手に連れ去らないでくれます?」


眉根を寄せる険しい表情で、相手の男を睨み据える。

肩に回された腕の力が緩んだその隙に、私はすぐさま動いて琉依くんにぴたりとくっついた。

そんな私に、ガラの悪いお兄さんは片眉を上げて問い掛ける。


「コイツが待ち人?」


ち、違うけど……ここは否定しちゃいけない気がする。

小さく曖昧に頷くと、ひとつ息を吐き出した男が琉依くんに近付く。

彼は一歩も退こうとしないし、また無謀にも私が止めようかとハラハラしていると。

男は琉依くんの肩に、ぽんっと手を乗せた。


「お前、彼女待たせちゃダメだろ~。こうやって悪いオッサンに連れてかれちまうぞ?」


あ、れ?

呆れたように言うお兄さんに、拍子抜けする私と、目をしばたたかせる琉依くん。

てっきりもっと険悪なことになるかと……。

いや、ならなさそうでよかったんだけど。

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