好きだからキスして何が悪い?
そんな想いが俺をとどまらせて、ただからかっただけのように見せかけた。

この謎の行動を、菜乃はどう思っただろう。

琉依を想ってるアイツには迷惑でしかなかったか……。


祭りに誘われたのも、きっと琉依とふたりじゃ恥ずかしいからとか、そういう理由なんだろうと思った。

でも、好きなヤツを他の男とふたりにさせるなんて嫌に決まってる。

密かにそんな想いも手伝って、俺は祭りに行くことを決めたんだ。



当日は、バイトを終えてから待ち合わせ場所に向かった。

眼鏡も掛けず、普通の格好で。

せっかくの祭りだし、こういう時くらい、本当の自分の姿で菜乃と会いたかったから。


しかし、それはやっぱり誤算だったのだと、屋台の匂いの中に足を踏み込んで間もなく思い知る。


「……奏?」


斜め後ろから聞き覚えがある声がして振り向くと、そこにいたのは浴衣姿のマリだった。

女友達とふたりで石段に座っている彼女を見て、俺はわずかに眉をひそめる。


「何でまたお前に会っちまうんだ……」

「そんな嫌そうな顔しなくても」


不満げに口を尖らせるマリと、友達もくっついて俺に近付いてくる。

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