好きだからキスして何が悪い?
皆のもとから離れ、これでやっと決別できたように思えた。

音哉のことだけが心残りだけど、これが消えることはきっとずっとないだろう。


ほんと……つまらない男になったよな、俺。

地味男を演じて、ずっとアイツらから逃げていて。

クラスメイトから相手にされないどころか、カオスな劇までやらされるなんて、笑っちまうくらいカッコ悪いだろ。


そんなふうに今の情けない自分を思い返すと、必ずくっついてくる人物がいる。

そいつが真剣な目で俺を見つめながら言った言葉が、ふいに蘇ってきた。


『如月くん、何があっても暴力だけはダメだよ?』


「もうする気ねぇって……」


鼻で笑いながら、ぽつりと呟いた。

ケンカも、適当に女と付き合うのも、あの頃やってたことにはもう興味がない。

今、興味があるのは──。



「……早く行かねぇと」


純粋な笑顔を見せる菜乃を思い浮かべて、俺は赤い橋に向かって走り出した。


菜乃や、琉依や藍原と一緒にいるのが、いつの間にか心地良くなっていた。

音哉や親父がいなくなって、開いたままだった心の穴が、少しずつ埋められているのもわかる。

俺の大事な居場所が、また見付けられた気がするんだ。

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