恋人境界線
南極の氷で出来たペンギンすら、いとも容易く溶けてしまいそう。カシミアみたいな君と、一緒なら。
「きっと俺の方が、夢中だけどね」
体を離した春臣は、片方の眉にアクセントを付けた魅惑的な笑顔をあたしに向ける。
離れがたくて。
もう一度春臣の胸にしがみ付くと、あたしは勇気を振り絞った。
「今夜、泊まる準備してきたの。だから、その……、一緒に過、」
過ごしたいの、と言い掛けた言葉は、「――帰ろう。」短いフレーズに阻まれた。あたしの腕を引いた春臣は、雪の上を大股で歩き出す。
「えっ、え!?ちょ、ちょっと待っ、春臣!?」
帰ろう、って…
バッグはおでん屋だし、みんなでマイクロバスで来たのにどうやって。
そんなあたしの一切の主張を、たった一言で断ち切る。
「今から抱くから。」
突然足を止めるから、背中にぶつかりそうになりながらあたしは立ち止まる。
「俺、めちゃくちゃ志麻に飢えてんだけど」
「…っ…、」
手袋の代わりに今日は、あたしが暖めてあげる。
雪が鼻の頭に舞い降りたけど、すぐに溶けた。あたしは今、暖かい。
end.


