恋人境界線

どうして春臣が、そんな心細そうな顔するのよ。いつも焦らして突き放すじゃない。
好きすぎて暴走しそうなのは、いつだって、あたしの方なのに。


「志麻、俺と一緒にいて、楽しい?」
「え……?」


『いつも、そんな顔を春臣に向けてるの?』


あたしが、思い詰めた顔をしていたから。不安が春臣にも伝染してたの?


「あのねっ、」喉にグッと力を込めて、あたしは一歩踏み出した。どうしても今伝えたい。
恋人の在り方とか、理想とか、全部全部、無しにして。
ただ気持ちをぶつけたい。


「好き――」


言うが早いか。
抱き締められて。苦しくて目尻に涙が溜まる。

このままずうっと溺れていたら、体ごと溶けてしまって、生ぬるい水になって、春臣に染み入ってしまうかもしれない。


「春臣が好きで、好きで。堪らないの……っ」


例えば、そう。
あたしは知ってる。

好きな香水の匂いや、名付けの理由。
それに、抱き締められたらまるで南の島にいるみたいに、際限なく暖かいことを。
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