坂道では自転車を降りて
文化祭
 演劇部の公演は二日目日曜の午前だ。文化祭では様々な部が舞台を使うので、大道具はすべて当日に部室倉庫から出して階段を下ろし、終わったら速やかに部室へ運び込む。舞台の時刻は進行によって変わるので、プログラムとにらめっこしながらジリジリとその時を待つ。舞台監督である大野さんの合図で、大壁を運び始める。俺と1年4人に彼女と川村。7人で3枚の壁を運ぶ。

 階段を下りていた時だった。客が広がって階段を上がってくる。俺たちは階段の端に壁を寄せて行きすぎるのをまっていた。「あっ」「うわっ」と声がし、川村と一年が運んでいた壁が客の方へ倒れて行く。誰かが川村にぶつかったらしい。横についていた彼女があわてて立て直そうとするが、バランスを崩した壁は重く、そのまま客の方へ倒れていく。「あっ」今度は大野さんが叫んだ。慌てたのか足を滑らせ階段に尻餅をついている。壁は一気に客の方へ倒れた。大きな音がした。

 何も出来ないまま、すべてが静まり返る。客の中にいた男がとっさに壁を支えてくれていた。俺と残りの1年3人は、慌てて壁を床に置き、事態を収拾に走った。男は倒れた壁を運び下ろすのを手伝ってくれた。大野さんは、多分尻に痣ができた程度だと言いながら、震えて川村の方をみていた。見ると川村が右手を押さえて立っていた。
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