坂道では自転車を降りて
「神井くんにもお世話になりました。ようやく終わりました。」
大野さんは頭を下げると、そそくさと隣の倉庫へ消えた。

「ごめん。お待たせ。」
誰に話しかけてるんだ??
「ほら、軍手。」
「ありがとう。」
そうか。川村と一緒に来たのか。

ふと思い出した。彼女は左手を怪我していたはずだ。立ち上がり、倉庫を覗く。

「大野さん、俺がやるよ。」
言うと彼女はまたムッとした。
「別にいいよ。」
「まだ、治ってないだろ。」
彼女の左手を指差す。軍手の中にはまだ白い包帯が残っていたはずだ。

「大丈夫だよ。」
「いいよ。俺がやるよ。」
「大野さん、代わってもらいなよ。その方が俺も楽だし。」
 川村が言うと、彼女はとてもびっくりして、悲しそうな顔をしたが、すぐに引き下がった。
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