坂道では自転車を降りて
もうすぐバレンタインだ
 昼休み、生駒さんの本を見るのは週1~2回くらいのペースに落ち着いた。あいた日は多恵と図書室で待ち合わせる。その日も筆談を楽しんでいると、唐突に聞かれた。
『チョコレート好き?』
あ?普通に食べるけど。。
『フツー。』
『そうだね。チョコパン食べてたね。』

あ、そうか。彼女の質問の意図が分かった。もうすぐバレンタインデーだ。
『甘いものはわりと好きな方』
目を合わせて笑いかけた。
『OK。がんばる。上手くできなかったらゴメン。』
ニコニコ書き込む彼女だが、
『無理しなくていいよ。』
料理は苦手って言ってた。部室で食べたかなり微妙なおむすびの味を思い出す。腹が痛くなったりはしなかったけど。。

 不安が顔に出てしまったのだろうか。彼女が拗ねた顔をする。でも目は笑ってる。
『いらない?』
要らないわけないだろ。生まれて初めての女の子からの本命チョコだぞ。たとえ激不味くても、欲しい。はずだ。
『要る。欲しい!ください!』
慌てて、訂正する。
 去年までの俺だったら、本命の彼女からチョコが貰えるならどんな味だっていいと断言しただろう。だが貰える事がほぼ確定してしまった今は、どうせなら普通に食えるチョコをと思ってしまう。人間って、なんて強欲なんだろう。
< 486 / 874 >

この作品をシェア

pagetop