坂道では自転車を降りて

 むくれる多恵をみんなが笑う。和気あいあいとした雰囲気に、ホッとする。なんだ。ちゃんと仲良くやってるじゃないか。
「神井先輩はもう帰れるんでしょ?大野先輩も先帰っていいですよ。後は俺達が片付けときますから。」

 あの一件以来、椎名は俺の前では口をきかない。仕切っているのは織田のように見えるが、実際はどうなんだろう。椎名とは一度、話をした方がいいかもしれない。
「本当?え、でも悪いよ。」
「チョコ貰ったし、みんな良いよな?」
「あぁ。」「うん。」
「ありがとう。」

 彼女が倉庫の奥で作業着から制服に着替える間に、織田が俺の横に来てさっきの袋を差し出した。
「これ一つどうぞ。」
 織田以外の3人は顔を見合わせている。袋の中にはチョコクッキーが一つと割れた残骸がいくつか残っていた。不審に思ったけど、織田の目は真剣で断れる雰囲気じゃなかった。貰って口に入れてみる。噛んだとたんに、思わず口からこぼれそうになった。織田がにやりと笑う。

「にっ。にがっっ。なんだこれ。」
口から出す訳にも行かず、口に入れたまましばし唖然とした。

「焦げてますよね。完全に。」
だから残ってたのか。。仕方ないので噛み砕いて飲み込むことにする。噛むたびにチョコとは違う苦みが口に広がる。
「お茶、誰か持ってる?」
椎名が分かっていたかのように無言でお茶を差し出した。俺は礼を言って飲んだ。
「帰り、お茶が無いと辛いですよ。多分。」
「分かった。買ってから帰る。」

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