坂道では自転車を降りて
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 公演まで1ヶ月を切った。今回は大道具を早めに仕上げて大道具を使って演技の練習をする必要がある。裏方の作業はピークを迎えていた。脚本と演出はほぼ仕上がったので、役者連中はあとはひたすら稽古だ。
 生駒さんのお返しは原が手配してくれた。俺は自分の事で手一杯だったから。
公園で彼女にお返しを手渡しながら聞いてみた。
「そういえば、多恵はチョコをくれた友達には何を返したの?」
「キャンディとイラスト。その子をモチーフにイメージ画みたいなのを一枚。」
「へぇ。。」
さすがだな。

 自分のイメージでイラストを描いてもらえるなんて、女の子が喜びそうなことだ。みんなが彼女にチョコをあげるわけだな。
 結局、俺はさんざん迷って、ハンカチを買った。タオル地で実用的だけど、カエルの刺繍が入ってるちょっと変なヤツ。変わったものが好きな彼女が喜びそうな。

「あ、ケロちゃんだ。かわいい。」
どうやら絵本のキャラクターらしい。かわいいってことは、嫌いではないんだな。ホッと胸を撫で下ろす。

「でも、ハンカチって、お別れの時に渡すんじゃないの?」
「違うだろ。だって菓子売り場でもハンカチ売ってたよ。」
「そうか。。」
「葬式の時にもらうヤツの事、言ってるの?」
「そうでした。スミマセン。」
「これは、泣き虫の君に。俺の制服がこれ以上塩水で濡れると困るから。」
「むーっ。もう泣かないもん。」
「それは無理だね。」
「無理じゃないもん。それに、泣かせてるのは君じゃない。」
「だから、無理だって言ってるのさ。」
「何それ。」
「いいじゃん。泣けよ。俺の前で。」
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