坂道では自転車を降りて
「今日は、俺が・・・・・か?」
 相変わらず先輩の声は低くて聞き取りづらい。っていうか、聞いてていいのかな。目の前の川村はじっと部室の中に意識を向けている。仕方ないので、そのまま聞き続ける。こいつは『あの時』を何か知ってるのかな。しばらく間があいた。

「先輩、ちょっと。」
「何だ?」
「いえ、なんか、話があるんじゃなかったですか?」
「ある。」
「ちょっと、これ、くすぐったいですよ。」
くすぐったいって?くすぐったいって。先輩、何してるんだろう。

「俺、お前が好きなんだ。」
うわ、とうとう言ったぞ。
「はい。」
大野さん、そんなハキハキ返事してる場合じゃないんだって。
「意味分かってるか?」
「私も先輩が好きです。」
違うよ。意味が違うよ。大野さん。
「いや、そういう意味じゃないんだ。」
言いながら先輩の盛大なため息が聞こえた。先輩、がんばれ。
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