坂道では自転車を降りて
多恵は、何をされてたの?
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 月曜日の放課後、演劇部の部室に行くと、部室の前の廊下に一年生がはみ出て中を覗いていた。部室へ入ると神井先輩が不機嫌な顔で台本を読んでいた。一年生達も初対面って訳でもないんだろうけど、この顔は見慣れてないとかなり怖いだろうな。下手に隣で騒いだりしたら、あの目で睨まれて、一瞬で炭にされてしまうに違いない。2年生もなんとなく部室へは入りにくいのか、前室で大人しくしていた。生駒さんと宮本さんだけが平気な顔で部室で一緒に台本を読んでいた。神井先輩を外へ連れ出すと、一年がどよどよと避けた。

 俺は3階へ上がり、2年の教室に先輩を連れて来た。どの部室からも離れているので、この後に人が通る事はまずないだろう。
「で?」
先輩は窓から外を睨んで言った。
「大野先輩は今日は先に帰ったんですか?」
「今日は予備校の筈だ。もう、ずっと会ってない。昼休みにも。」
「会ってないんですか?ずっとって、いつから?」
「お前の話が先だ。多恵がどうして泣いたのか、お前は知ってるんだろ?」
「あ、はい。でも。」
「何があった。言えよ。」
もう、全て話さなければ収まらないだろう事は覚悟してきた。けど、どう話したらいいんだろう。。
「俺も、本当のところは分からないんですが。」
俺はそう前置きしてから、話し始めた。

「俺が見たとき、大野先輩は半分放心状態で。多分、すごく怖かったんだと思います。」
 神井先輩と話すのを沼田先輩に頼む事もできたかもしれない。でも、責任は俺にあるし、俺の方が2人の事を良く知っている筈だ。大野先輩は神井先輩にだけは知られたくないと言った。どうしてなんだろう。
姉さんに聞いてみたりもした。姉さんも話さなくて良いと言った。隠せるなら隠してやれと。でももう半分バレてると言ったら、だったら下手に隠さない方が良いかもしれないとも言った。結局、神井先輩次第なんだろうと思った。
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