坂道では自転車を降りて
その後、夏休みが終わるまでの10日程は、まさに蜜月だった。彼女は俺の部屋に毎日やって来て、2人だけの時間を過ごした。土日は朝から夕方までずっと一緒だった。もちろんほとんどは勉強していたけれど、ふと目を向けると彼女がそばにいて、時にはちょっぴりイチャイチャして。それだけで本当に幸せだった。
彼女は最初、母さんの留守中に俺の家に上がるのをとても嫌がっていたけど、母さんもたいてい3時過ぎにはパートから帰って来て、一度部屋に顔を見に来るようにしてくれたから、彼女は安心して俺の部屋に入り浸るようになった。母さんの方も、とくに俺達をとがめなかった。彼女は母さんがいれば必ず挨拶してから上がるし、留守中に来た時には母さんが帰宅すると、一度挨拶をしに階下に降りるようになった。帰る時にも挨拶してから帰った。その様子から大丈夫だと判断したのかもしれない。
一度だけ、母さんが父さんの所に泊まる日に彼女を家に上げて、何故だかすぐにバレた。「なんかしたでしょ?」と言われて、「もう少しだけ我慢して、大事にしてあげなさい。」と釘を刺されたけど、留守中に彼女を家に上げた事自体は何も言わなかった。彼女と母さんの間に何か会話らしいものがあったようには思えないのに。母親の直感はそんなことまで分かるのだろうか。