甘い恋の賞味期限
 そんな中で、秘書室からの頼み事が1番多いように思う。

「総務部です。電球を替えに来ました」

 秘書室に入ると、いつも圧倒される。香水の匂いに、バッチリ決めたメーク。ひとりひとりが綺麗で、何よりも自信に満ちている。
 そのせいなのか、秘書室のお姉様方は総務部を見下しているように思えてならない。被害妄想と言われれば、反論できないかも。

「給湯室の電気が点かないの。替えておいて」

「…………はい」

 前言撤回。被害妄想じゃなく、絶対に見下している。
 だって、こっちを見ようともしない。彼女達にとって、総務部は召使い。

「僕が支えてるから、交換を任せてもいい?」

「はい」

 給湯室に入り、聡太が脚立を準備してくれる。
 その間に、千世は新しい電球を用意しておく。

「この機会に、LEDに変えたらどうですかね?」

 靴を脱ぎ脚立に乗って、切れた電球を取り外す。総務部に入ってから、何度この作業を繰り返しただろう?
 今では電球交換も慣れたものだ。

「そっちの方が省エネじゃありません? お値段は高いですけど」

「確かにね。長持ちするって言うし、検討してるとこなんだ」

 新しい電球に交換して、脚立を降りる。靴を忘れず履き、ホコリを被っていないかチェックしておく。
 以前交換した際、ホコリが髪に付いていた事があった。
 それを秘書室のひとりが目ざとく見つけ、注意してきた事があったから。

(あんた達の為に交換しに来てる、って言うのに……)

 思えば、ありがとうを言ってくれた社員がどれだけ居たことだろう?
 総務部は何でも屋。
 どこの部署にとっても、召使いなのだ。

「備品のチェックは私がしておきます」

「いいの?」

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