甘い恋の賞味期限
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 間宮グループは、国内で知らぬ者がいないほどの大企業だ。飲食業で成功をおさめ、不景気と呼ばれる昨今においても赤字知らず。
 そんな会社で働ける自分は、とても恵まれていると思う。専門学校卒業が間近に迫っても就職先が見つからなかった時、両親が営む喫茶店を継ごうとも思った。
 けれど諦めず面接を受け続けて良かった!
 こんな大企業に就職できたのだ。
 とは言え、両親の喫茶店を悪く言うつもりはない。
 むしろ、気に入っている。
 だが、それとこれとは別。将来を考えたら、喫茶店経営よりも大企業に就職した方が良いに決まってる。

「ーーはい、総務部です」

 内線を取り、槙村 千世はコツコツとデスクを指で叩く。
 どうやら、電球が切れたらしい。用件だけ言えばいいものを、電球が切れたから困るわ、とか言う話をされても、こっちが困る。

(そんな風に主張しなくても、替えに行きますよ。……ったく)

 ようやく内線を置くことができ、千世は席を立つ。

「秘書室の電球が切れたそうなので、替えに行ってきます」

「脚立、持って行くの手伝うよ」

「ありがとうございます」

 2年先輩の桂木 聡太は、優しくて良い先輩だ。入社したばかりの頃、優しく仕事を教えてくれた。童顔で、下手したら高校生に見えなくもない彼は、既に3児の父。
 初めて会った時、年齢を疑ったものだ。

「いつもすみません。脚立、持ってもらって」

「気にしなくていいよ。重いから、女の子には大変だ」

 総務部で働いて4年。
 その間、1度も脚立を持ったことがない。すべては心優しい、桂木先輩のお陰だ。

「ついでに、備品の点検もしておこう。秘書室のお姉様方は、姑ばりに目ざといから」

「ですね」

 総務部に入ってから、色んな部署に頼み事をされる。トイレの紙がないとか、コピー用紙が足りないとか本当に雑事ばかり。


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