甘い恋の賞味期限
「……そう、ですね。行きましょうか、咲世子さん」

 咲世子は心なしか嬉しそうな顔をして、千陽と共に買い物へ出かけた。
 ふたりを見送った千世は、オープンの札をクローズに変えて、店のキッチンに行く。コーヒーは自分でも淹れられるが、父親の味には負ける。
 だから、コーヒーだけは自分で淹れない。小さい頃から、コーヒーは父親が淹れてくれるもので、缶コーヒーも、インスタントも飲まなかった。

 ーーカラン……。

 ドアの開く音が聞こえて、千世はオレンジジュースを注ぐ手を止める。

「すみません。今は店主がいなく、て……」

 予想外の人物の登場に、千世は驚きで声が詰まった。
 どうしてここに、静子がいるんだろう?

「話があって、来ました」

 静子はそう言って、千世を真っ直ぐに見つめてーーいや、睨んでいた。

「あ〜……何か、飲みますか?」

 店主は留守だが、ここは喫茶店。コーヒーは出せないが、今手元にあるオレンジジュースなら出せる。

「いりません。いいですか?」

 千世が座っていた席の向かいに座ると、静子は真剣な面持ちで、千世が来るのを待つ。

(なんでここに来るの……?)

 状況が、まったく分からない。
 とりあえず、ふたり分のオレンジジュースを持って、席へ戻ることにした。

「え〜っと……よく、ここが分かりましたね」

 静子に会ったことはあるが、実家の喫茶店の場所や名前を教えたことはない。
 それなのに、彼女は今、ここにいる。

「以前、坊ちゃんが言っていました。スピカ、と言う名前の喫茶店に行った、と。なので、調べたんです」

 そうまでして、ここへ来たかったの?
 ますます意味が分からなくて、千世は視線が泳いでしまう。

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