甘い恋の賞味期限
 しばしの沈黙の後、口を開いたのは静子だった。

「貴女って……ずる賢いのね」

「は?」

 いきなりの言葉に、千世は持っていたコップを落としてしまいそうになった。

「だって、そうでしょ? 子どもに取り入って、間宮さんの気を引くなんて」

「……何か誤解があるようだけど、別に私は取り入ったつもりも、気を引いたつもりもないんだけど……」

「私見たのよ! 貴女が間宮さんと一緒に、マンションに入って行くの」

 あの時か……。誰に見られているか分からない、と警戒していたつもりが、全然できていなかったようだ。
 だが、静子が見ていたなんて思うはずもない。と、言い訳してみる。

「私をクビにして、あの家で働くつもり!?」

「クビ? あ、クビになったんだ……」

 それは知らなかった。
 でも、千世のせいではない。決めたのは雇い主である史朗だ。

「私、家政婦になるつもりはないですしーー」

「あんたのせいよ! 私がどれだけ、あの家で頑張ってきたと思うの?」

 バンッとテーブルを叩き、静子が勢いのまま立ち上がる。

「間宮さんのために、なりたくもない家政婦になった! 子どもの相手だってしたっ。それなのに、どうして間宮さんは私をふるの?」

 感情に任せて吐露している静子を、千世は複雑な気持ちで聞いていた。
 あまり興味はないが、静子は史朗に告白して、振られてしまったようだ。

「貴女が坊ちゃんに取り入らなければ、私は今頃、間宮さんの恋人になれてた! そうでしょ?」

「聞かれても困るけど……」

 史朗が振った理由を、千世が知るはずもない。
 だが、千世は思ってしまう。史朗が静子を選ばなかったのは、必然だと。

「どうしてよ? 私がどれだけ努力してるか、貴女は知らないでしょ?」

「しずーー武内さんは、どうして千紘に可哀想とか言うんですか?」

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