嘘とワンダーランド
「京極はどうした?

一緒にいたんじゃないのか?」

わたしに歩み寄りながら聞いてきた課長に、
「京極さんは電話に出ています」

わたしは答えた。

「そうか、なら構わないな」

「えっ?」

聞き返したのと同時に、グイッと課長に腕を引っ張られた。

「かちょっ…!?」

「“正文”だ」

課長の腕の中に、わたしの心臓がドキッ…と鳴った。

いや、そうじゃなくて!

「ここ、会社です!」

腕の中から課長を見あげて言うと、
「わかってる」

眼鏡越しからわたしを見つめてきた。

場所がわかっていると言うならば、どうしてこんなことをしてくるの?

しかも、いきなりである。

いきなり抱きしめてきた課長に、わたしは戸惑うことしかできなかった。
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