嘘とワンダーランド
着替えとメイクを終えて寝室を出ると、
「おい、朝飯」

課長が声をかけてきた。

彼の顔を見たとたん、さっきまでの怒りが戻ってきた。

「自分で作って自分で食べてください!」

わたしはそう言った後、玄関に足を向かわせた。

ここから早く出るために靴を履くと、ドアを開けた。

もう知らない!

どうして形だけの夫婦とは言え、会社でも家でも課長の顔を見ないといけないのよ!

「いや、作ったから食べろと言いたかったんだけど…」

そう呟いた課長の声が怒っているわたしの耳に届くことはなかった。

バタン!

怒りに任せて閉めたドアは思った以上の大きな音だった。

近所迷惑がどうとかこうとかは今は関係ない!
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