きみの幸せを願ってる



俺は毎日通った。
同じ大学に通う学生、工藤輝として。


その日あった出来事を、教えては、笑いあった。


日に日に、きみにとっては初めて会う俺に信頼を寄せてくれるようになった。


呼び名は工藤くんを輝くんに。
そして、輝くんから、輝になった。


少しずつだけど、ふたりの距離は縮まった。


だけど、きみはずっと、恋人がいないと思いこんでいる。


思い出してくれる気配もない。


「いつか、恋人が出来たらね」


将来恋人と一緒にやりたいことを聞かせてくれるきみに、ズキッと胸が痛むのは、きっと覚悟が足りなかったせい。


どこかで信じていた。


きみと愛し合ったあのかけがえのない日々を、幸せだった日々を、きみが忘れるわけない、って。


恋人の存在が、すっぽり抜け落ちたきみの記憶。


きみのお母さんもお兄さんも、俺を腫れ物扱いにした。


『ごめんなさいね、凛が……』


『いつか、凛は思い出すよ、輝くんのこと』


お母さんは俺に謝り、
お兄さんは俺を励ます。


二人のせいじゃないのに……。


いつも俺に申し訳なさそうな顔をする。


自分たちだけが、覚えていてもらってる、そのことに対して、罪悪感さえも覚えているのだ。


全くそんな必要はないのに。


だから、俺は二人が病院に来る時間を避けていた。


お互い気を遣いあうのは、辛かったから。


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