最強甘々計画


 塩河さんとは夕方になる前に別れ、自宅の賃貸マンションに戻った後は、一人でゆっくりと過ごしていた。


 就寝前に、自社製のノートを取り出す。A7サイズと手のひらに乗るほど小さいので、メモ帳と言ってもいい。これは去年の秋に限定販売されたもので、表紙にお菓子の絵がちりばめられた、女性向きのかわいいデザインとなっている。


 現在勤めている文房具メーカー《ハクシ》への入社は、中高生の頃から《ハクシ》の文房具を愛用していた私の夢そのものであった。


 自社のノートはどれも、書きやすさや使う楽しさを、とことん追求している。 私が学校生徒の時に板書をノートに写す工程にわくわくとした気持ちを見いだせていたのも、《ハクシ》のそんな影ながらの企業努力が大きい。


 まず、ノートの表紙のタイトルスペースに、油性マジックで〈自分が食べた甘いもの〉と書く。


 表紙を開き、浮きを抑えるために背に近い部分にぐっと力を入れた。まっさらなページに綺麗な字で書こうと、心にちょっとした緊張感が生まれる。


 今の時代、メモはパソコンやスマホでこと足りるものになってしまったけど、私は自分の手で書いていきたいな。字、特に漢字は定期的に書かなければ、恐ろしいほどに書き方をどんどんと忘れていくしね。


 私は最初のページに、〈ストロベリーショートケーキ〉とだけ書き、ノートを閉じる。


 ページを最後まで使いきるほど、これからたくさん食べたものを書きたいな。甘いものを食べたい、食べられるようになりたい。
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