アクシペクトラム
4.ご希望の時間帯は…選んでやるよ

日曜10時の駅前

あれから、龍宮さんの携帯に会社から電話が掛かってきて、私たちはすぐに店を出た。
「白羽のことで何かあったらすぐに連絡ください」
別れ際、龍宮さんがそう言い、私は笑顔を作って、大丈夫ですと答えた。
こうなったら、白羽さんとのデートは行くしかない。
そこで龍宮さんから聞いた内定の事を持ち出して、今後白羽さんに脅されることがないようにしよう、そう心に誓った。

そして、迎えた約束の日曜―…

私は鏡の前で何度も格好をチェックする。
いくら気が乗らないとはいえ、あんなアイドルみたいな顔の男の子と一緒に歩くのだから、変な格好はできない。と言うかしたくない…。
だからといって、いかにもデート服とわかってしまうのは避けたい。
迷ったあげく私は、ロングスカートに半袖のブラウスという無難な格好にした。
脚は隠せてるし、腕くらいの露出なら大丈夫でしょ…
玄関を開けると、まさにお出かけ日和の爽やかな青空だった。

待ち合わせ場所の駅前に着くと、白羽さんはもう来ていた。
最初は、配達服じゃないから見つけられるか心配だったが、
そんなのも取り越し苦労で、遠くから見ても白羽さんだとすぐにわかってしまった。
なぜなら駅前に女の子の人だかりができていたからだ。
女の子たちの黄色い声に囲まれて、白羽さんが困ったように笑っている。
どうしよう、近づけないや…
私は、少し離れたところからその様子を眺める。
このまま帰っちゃおうかな…でもそれだと約束を破ることになるしな…
ため息をつくと、私に気がついたのか白羽さんが手を振る。
「サトーさーんっ!」
それと同時に、周りにいた女の子たちが一斉にこちらに振り返る。
「え、あのっ…」
その視線に耐えられず思わず後ずさりをすると、白羽さんが女の子たちに軽く微笑んだ。
「ごめんね、俺これからデートなの」
女の子たちのブーイングを無視して、白羽さんが走り寄ってくる。
「行こっか」
「え?」
「いいから走って、ほら」
強引に手をとられ、私は白羽さんに引っ張られる形で駅前を後にした。

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