アクシペクトラム

私は代理のようです

大人も子供に戻って楽しめる夢の国。
それがドリームランドのキャッチコピーだった。
私が学生時代に何度か遊びに来たときも、たくさんの乗り物や着ぐるみを見て子供のようにはしゃぎ、一日なんてあっという間だった思い出がある。
白羽くんはそんな夢の国にずっと行ってみたかったそうだ。
今どきの学生なのに行かないなんて…ちょっと珍しいかも…

ドリームランドに着いて早々、白羽くんはすごいを連発する。
「これがドリームランドかぁ!」
キラキラと目を輝かせる純粋な反応が意外だった。
「噂に聞いたドリームランド!」
「噂って、白羽くんもしかしてあれ信じてるの?」
確か、ドリームランドにカップルで来ると必ず別れる、というやつだ。
「…信じてるよ」
テンションが高かった声が、急に低くなる。
「え…」
その真剣さに私は言葉を失くす。
今まで来たかったけど来れなかった。カップルで来ると必ず別れるから。
ってことは、白羽くんには…
別れたくない彼女がいる。
「なーんだ…そういうことか…」
彼女と来れないから一緒に行く人を探していた、私の中で答えが思い浮かんだ。
それなら私はその彼女の代わりということになる。
「今からサトーさんのこと名前で呼んでいい?」
真摯な瞳が私を見つめる。
カップルらしくするってことかな…彼女の代わりに?
でも今日だけだし、協力してあげようかな…
「…うん」
私が小さく頷くと、白羽くんは繋いだ手に力を込める。
「カオリ」
トクンッ―…
何でだろう。白羽くんに呼ばれた自分の名前がとても特別に思えた。
「ど、どれから乗るの?」
胸が高鳴ったのを誤魔化すように、私は手を引っ張って歩き出す。
すると、後ろからくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「もしかして、照れてる?」
「照れてないっ!」
不覚にもときめいてしまった自分が情けない。
今は白羽くんの気が済むまで、彼女代理をしっかりとこなすことにしようと気を引き締めた。

< 17 / 30 >

この作品をシェア

pagetop