アクシペクトラム

佐藤カオリ

私、佐藤カオリは一般企業で働く普通のOLだ。
全国の佐藤さんには悪いけど、私は自分の名字があまり好きではない。
佐藤なんてクラスの中に最低二人はいたし、それは大人になって社会に出てからも同じだった。名字で呼ばれたからには、どっちの佐藤ですか?と質問も必ずついてくる。
珍しい名字の人がいれば羨ましいし、将来は絶対『雲母(きらら)』や『東海林(しょうじ)』のように、どう読むのか一瞬戸惑う名字の人と結婚したいと考えていた。

そんな普通のOLで、どこにでもいる佐藤の私が、人とは違う何かを探して始めたのがネット小説の投稿だ。
小説といっても、なんとか賞をとるような純文学やファンタジーではなく、大人女子向けの恋愛小説を書いている。
草食男子が多いと言われる今の時代、合コンでも開かなければ出会いも少ない。
私が小さい頃に読んだ少女漫画のような恋は、都会のオフィス街には簡単に落ちていない。
それでも、女性である限り胸が弾むようなトキメキは必要だと思う。
私自身、理想の恋愛を妄想することで、日々の乾いた生活を潤している面もある。
ネット小説の投稿もただの自己満足で始めたはずが、いつも間にかレビューも増えて、今では立派な副業となっていた。

大人向けの恋愛小説なだけあって、もちろん愛を深めるシーンがたびたび登場する。
ただ、過去の私の薄っぺらい恋愛経験だけでは限界がある。
そのため、色々な艶本を読んだり、ゲームを購入してみたりと、大人の恋愛を作るための資料を集めていた。
『アブノーマルで道具ありな感じが読みたいです』
つい先日、レビューにあったコメントに私は絶句した。
道具、って…それはさすがに妄想できない…。
そう思った私は、ネットの通販サイトでいわゆる大人のオモチャを探し、
一人暮らしにも関わらず、キョロキョロと周囲を見回してから、購入ボタンをクリックした。

注文した数も数だけに、絶対に人には見られたくない買い物、だったのに…―

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