アクシペクトラム

役目が終わるとき

閉園時間が近くなり、私は白羽くんに尋ねる。
「ほとんど乗ったし、そろそろ帰ろっか?」
すっかり陽が暮れて、紺色になった空にはちらほらと星が輝いていた。
「俺たち、まだあれに乗ってないよ」
白羽くんが空を見上げる。視線の先には大きな観覧車があった。
ライトアップが次々と変化し、まるで花火のように見える。
「あれは…」
ドリームランドの噂のひとつにこんな事がある。
“好きな人と観覧車に乗ると永遠に結ばれる”
カップルで来ると必ず別れる、という噂がありながら、観覧車にはそれとは逆のことが噂として広まっていた。
だから、遊びに来たカップルは必ずあれに乗ってから帰るため、いつも長蛇の列だった。
とはいえ、恋人同士でもない私たちが乗るわけにはいかない。
「混んでるみたいだし、白羽くんがいつか来た時に乗ればいいよ」
私は彼女代理でここにいるだけなんだから…
「カオリさん、もしかして噂のこと信じてる?」
白羽くんがライトアップの明かりに照らされる。
その瞳は、ここに最初に来て噂について話したときと同じく真剣だった。
「私も一応女なんだから信じてもいいでしょ?それよりも、今日一日付き合ったんだから約束してね」
「なにを?」
とぼけたわけでもなく、普通に思い浮かばないようだ。
「だから、荷物のこと…」
自分で言うのも恥ずかしい。
「あぁ、あれね」
「あれは仕事の資料として必要だったから買っただけなの」
私が使うために買ったなんて誤解されたままなのは嫌だった。
「別に言わないよ」
白羽くんは特に驚いた様子もなく淡々と受け入れる。
仕事のことを突っ込まれるのでは、と一瞬思ったが、それもなく私は安心した。
一方で、半ば脅すようにデートの約束をしてきたくせに、あっさりと納得されるのも何だか変な感じがした。
「あのさ…」
何か言いたそうに白羽くんが俯く。
その時―
「もしかして白羽くん?!すごーい偶然!」
若い女の子が2人、横から声を掛けてきた。二人ともミニスカートで脚を出し、腕にはいくつもアクセサリーをぶらさげ、今時の女の子という感じだった。
「あれ?もしかして忘れちゃった?ほら、この前の合コンで一緒だったじゃん」
一人の子がそう言って近づき、白羽くんの腕に触れる。私なんて目に入ってないようだ。
薄っすら明かりに照らされた顔に私も見覚えがあった。
そうだ、この子たちは真希と行った居酒屋に来ていた大学生だ。
確か男2人、女3人で来ていて、後から白羽くんが呼ばれていた。
「じゃぁ私、行くね」
「待ってカオリさんっ、家まで送るよ!」
白羽くんが女の子たちの腕をほどこうとする。
「平気平気、それじゃ…」
私の役目も果たしたし、荷物のことも解決した。
心配ごとが無くなったはずなのに、胸の奥に何かがつっかえたように重たくなった―…
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