アクシペクトラム

強引だけど不思議な人

「カオリさんの弁当も食べたかったなー」
厚切りのサンドイッチを頬張りながら、白羽くんが不満そうな顔をする。
私たちは遅めの昼食をとりにフードコートに来ていた。
好きな物を選んで、と白羽くんに言われ、私は外でも比較的簡単に食べられるサンドイッチの売店に並んだ。
お手軽な値段のサンドイッチでも、手作りが売りなだけあってボリュームがある。
これなら、白羽くんのお財布にも優しいだろうし、お腹も満たされるはずと思っていたのだが…。
「サンドイッチ嫌いだった?」
野菜もシャキシャキで新鮮だし、卵もふわふわで美味しい。
白羽くんが頼んだベーコンサンドも肉汁が香ばしく、カツサンドも揚げたての衣がサクサクで美味しそうだった。
「これはうまいよ。けど、やっぱ手料理とか食べてみたいなーって思って」
「お弁当作ってって要望なかったじゃない」
「それってお願いしたら作ってくれんの?!」
白羽くんがテーブルに身を乗り出す。カッコイイ顔が急に子供っぽく見えた。
「俺、カオリさんがどんな卵焼き作るか、すげー興味ある」
卵焼きって…
誰が作ったって同じく黄色になるはずだ。
もっとカレーとかハンバーグとか、人によって味が変わる料理に興味があるならわかるが、なぜ卵焼きなのだろう。
「…変なの」
私の口からくすくすと笑みがこぼれた。
夢の国に来てはしゃいだり、卵焼きが見たいと瞳をキラキラさせたりと、子供っぽいかと思いきや、女の子を助けた時は違う一面を見せられた。
白羽くんは強引だけど、不思議な人だ。
「やっと見れた」
「え…?」
白羽くんが穏やかに目を細める。
「カオリさんの笑顔」
トクン―…
胸の奥が小さく、でも確かに音をたてた。
反則だよ…
高鳴る鼓動を抑えて、心の奥でブレーキをかける。
「た、卵焼きなら彼女に作ってもらえばいいじゃないっ」
私は食べ終わった容器をまとめて立ち上がる。
「え、ちょっと、カオリさん?」
「閉園まで後少しなんだから、ほら乗りに行こ」
白羽くんを振り返らないようにして、私は売店にトレイを返却しに行った。

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