ボクサーな彼女
「そうね。けど、ほんとにもう少し待って…」と彩が言うと、「それどころじゃないってことですよね?所詮俺より、ボクシングが大事なんですよね。彩さんは」と陸は言った。「そんな言い方しないでよ」と彩が言うと、「いいんですよ。俺は。結婚しても、現役続けてくれて…」と陸は言った。「まぁ、ゆっくり考えなよ。二人のことだし」とボスは言った。
それから数ヵ月の歳月が流れた。
彩は栄介と戦う日を迎えた。会場は歓喜にわいた。ファンの多くがこの日を待ち望んでいた。会場はたくさんの人で埋め尽くされていた。
リングに上がり、二人は向き合った。一礼すると、「やっとこの日がきましたね!!待ち望んだ日が。お手柔らかにお願いします」と栄介が言うと、「望むところよ。最後まで楽しみましょうね!!」と彩は言った。試合は始まった。観客は熱狂している。その熱に彩の体温も上がった。苦しい試合になった。彩のボルテージは上がっていた。ラウンドが進むたび、強さを見せつけた。彩はどんな技をかけても、うまく交わされてしまった。彩の息は上がり、だんだん苦しくなってきた。時折、ふらつくことをあった。それでも最後まで諦めず戦った。最終ラウンド、栄介の強烈なアッパーを食らった彩は数センチ吹っ飛び、そのまま崩れた。再起不能だった。彩は負けた。栄介に勝てなかった。多くの歓声と声援が渦巻くなかで彩はただ、伸びていた。
試合終了後、栄介は彩の手を引っ張り立ち上がらせると、「彩さん、ありがとうございました」と栄介は言って彩を思いきり抱き締めた。観客からは拍手が送られた。「負けたわね。栄介、強くなってたわね。ありがとう」と彩は言った。そして二人は、リングを降りた。駆けつけてくれる、ボスや草津と理亜、紀子、端で見ていた陸は彩の健闘を讃えた。
「楽しかったわ。これで、思い残すことなく引退出来るわ」と彩が言うと、「俺、まだ戦ってないんだけど?」と草津は言った。そこにオーナーが来て「彩ちゃんお疲れ様。心は決まったみたいだね。近いうち、引退会見開こうか」と言われ、彩は大きくうなずいた。
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