それでもあなたと結婚したいです。
26 想いでの人

あの事件以来、私は今までとは別の部署の秘書に配属されていた。

明らかに社内での左遷だ。

目撃された割に少しも騒ぎにならず、私だけがから回っていたのかと思うと何もかもが虚しくて、仕事も投げやりになっていた。

周りから聞こえてくるのは小さい陰口くらいで、イレギュラーな私の人事異動に対してのものだけだった。

今となっては泉CEOの噂すら余り聞かないような部署だ。

どうせ顔を見れば辛くなるだけなんだから、私には丁度良いのだろう。

あの時、泉CEOが言った「本当の俺を知ったら………」あの言葉がずっと気になっている。


「どうして私じゃ駄目なのよ………。ちゃんと説明してよ………。」


二人の絆みたいな物を見せつけられた様な気がして、悔しくて腹が立って仕方がなかった。


「金子秘書!こんなとこに居た!そろそろ会議の時間じゃない?行こうよ!」


「あぁ、はい………。私も必要ですか?」


「あったり前でしょ!!俺だけじゃ今一、偉そうに見えないでしょう?そこでモデル系秘書の君を横に侍らせるのさ!」


今年、最年少で部長に昇格した宮前 賢二部長。
やる気のない私の態度にも何も文句を言わず、いつもこんな風に私に話し掛けてくる。

どうやら私より年下で、見たところ仕事は出来る様なので、実力で部長の席を獲得したようだ。


「私はモデルじゃありません。」


「そんなの知ってるよ。モデルよりかなり貴重じゃないか?顔やスタイルだけじゃなく、頭もキレるんだから、誰か分かんないけど君を離してくれて良かったよ。」


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