イジワル上司の甘い求愛

「この間、還暦パーティーで星川が言っていたこと覚えてる?」

いつも飄々として、スマートに話をしてくれる浦島さんからは想像しがたい位に浦島さんは言葉を選びながらゆっくりと喋る。


星川先輩が言っていたことってきっと、『玲美さんから解放された』っていう話だろう。

「4年前、会社の全員の前でいきなり玲美が俺と結婚したいって言いだしてキスをしたことあっただろう?」


苦々しい記憶が鮮明に思い返されて、胸が苦しくなる。

「あの時は、ほとんど初対面の玲美にキスされて何かの冗談だって思ってた。ただ、あんなに大勢が盛り上がっている中で俺が頑なに否定して、玲美だけじゃなく社長にも恥をかかせるわけにはいかなかった。もちろん、当時の俺には拒否できるような勇気もなかったんだけどな」


浦島さんの話を聞きながら私は視線のやり場もなく自分のつま先の一点を見つめるしかない。

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