虹色のラブレター
* 3 *

それから僕たちは、お互いに連絡を取り合うようになった。


でも、それは安易なことではなかった。

なぜなら携帯電話というものが、まだ今みたいに普及していない頃だったからだ。

今ならば簡単にどこからでも、誰とでも連絡を取れるのが常識だ。

でも、その頃は持っていないのが常識だった。

もちろん、僕も美貴もそういった便利な道具は持っていなかった。

持っているというだけで、毎月何万円もの料金が掛かるのだから、普通の人は持っていなくて当然だ。


でも、幸い僕たちは喫茶店で顔を合わすことが出来た。

だいたいの約束はそこでして、後は家からの電話で連絡を取り合うようにしていた。


僕が休みの日には夕方5時に駐車場で待ち合わせて、彼女が休みの日は、わざわざ僕の仕事が終わる時間くらいに来て待ってくれていた。

それからご飯を食べに行ったり、ゲームセンターに行ったり、カラオケに行ったり、車が好きな僕に彼女が付き合ってドライブしたりして、僕たちは二人の時間をしばし過ごすようになった。




*




久しぶりに貴久と昼休憩を一緒にとることができた。

異様に仲がいいと勘違いされた僕たちは、(仲がいいのはいいが、貴久が僕に慕っていたのが原因だ)上司から「休憩は別々に取ること」と言われていたのだ。

でもその上司が異動になり、僕たちはまた一緒に休憩を取ることができるようになった。




喫茶店に入って、いつものテーブルに僕たちは座った。


「お前とここに座るのって久しぶりだな」貴久が嬉しそうに言った。


『うん。……で?あの子とそれからどうなの?』


僕の質問にすぐに答えず、貴久は普段読みもしない雑誌を広げた。

彼に雑誌や新聞なんてお世辞でも似合っていなかった。


「……全然ダメだよ。諦めるしかないかな……。なあ……なんかいい方法ないか?」


『う~ん……そうだな~』


考えながら、僕も手に届くところにあった雑誌を取って広げた。




「いらっしゃい、今日は?……ってゆうか今日も同じ?」


注文を取りにきた美貴が、お冷をテーブルに置きながらそう言って僕に笑って見せた。




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