虹色のラブレター


美貴は手に取った鞄を膝の上に置き、少し俯いてからもう一度顔を上げた。

しばらく何も言わずに彼女はジッと僕の方を見ていた。

その目は言葉を声にするかどうか迷っているように見えた。

それは少し怯えているようにも見えた。

僕はそんな彼女の言葉を待った。

やがて彼女の唇が僅かに開き、そこから声になっていないような声が漏れた。


「また……」


『うん』


「また……会ってくれるのかな」


僕はすぐに答えることが出来なかった。

やっぱりこれは不誠実なことなのだ。

結局、僕は彼女の笑顔の数と同じだけ彼女に涙を流させてしまう。


その時、ふと海の展望台で美貴が言った言葉が浮かんできた。


――ー私の為に我慢して。


僕がもし、彼女と同じ立場だったとしても同じようなことを言ったと思う。

相手が自分のことを好きじゃなくてもいい。

好きな人の前に少しでも居られればそれだけで十分幸せだ。と……。


僕が言葉を濁していると彼女はもう一度俯いた。


「ごめんね……もう言わないから」


『うん……わかった』


「じゃ……」


彼女はドアに手を掛けて、車を降りようとした。

僕はとっさに彼女の背中に声をかけた。


『美貴さん?やっぱり……』


「いや……聞きたくない……」


『でも……』


「いいの……」


その言葉を最後に、彼女は車から降りて、すぐにドアを閉めた。

そして、窓越しに笑顔を見せて僕に小さく手を振った。

次の瞬間、美貴は勢いよく駆けて行った。


< 70 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop