燃え滓と夜にみる夢【短編】
あの頃の私は、今よりずっと幼くて気持ちを素直に伝える術なんか持ち合わせていなかった。

ただ、毎日グラウンドを駆け回る彼を眺めるのが幸せだったんだと思う。

美術室の窓からはグラウンドが一望出来る。毎日、シュールな絵ばかり描いていた私には彼の笑顔が眩しかった。いつしか、其処から彼を見下ろす儀式は私を癒し、恋心へと発展していった。

彼が練習の途中に親友と何やらひそひそと耳打ちする間、見上げる視線を感じて私は急いで目を反らす。
そんな瞬間が一番のお気に入りだった。

私の隣にも、同じ目的でグラウンドを見下ろす親友がいた。幸いなことに彼女の目当ては彼ではなく、彼の親友の方だったが。

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