強引上司の溺愛トラップ
そして。

「あの、今は八月ですよ? なんでこのタイミングで新入社員が異動してくるんですか? 入社してまだ半年も経ってないじゃないですか。そのタイミングで異動って、あんまりないですよね?」

もしかしたら何かワケありなんじゃないだろうかと思ったんだけど。


「ああ、それな。俺もちょっと気になったけど、特にそういうわけじゃなくて、単に今年は退職する社員も多くて、その調整に入っちゃっただけみたいだ。少なくともなにか問題起こして異動になったとかじゃなくて、むしろ愛想も仕事振りも良くて、評判もいい新入社員らしいぞ」

「で、でも男の子なんですよね? きょ、教育係なんて私には無理です! 女の子の教育係だって自信ないのに、ましてや男の子なんて!」

教育係だといって、別につきっきりでなにかしてあげる、というわけではない。でも、新入社員に主に仕事を教える役割だから、一緒にいる時間は確実に長くなる。


…….男の子と長い時間いっしょにいるなんて、私自身も辛いけど、もっとかわいそうなのは、私なんかが教育係になる新入社員の男の子だ。

私がちゃんと仕事を教えてあげられないせいで、その子の今後の仕事に影響が出てしまったらどうしよう。


でも、私こんな個人的な意見を、部長は聞くはずもなく。

「お前以外の融資課の社員は皆役職で、教育係してる時間ないんだ。っていうのはお前もよくわかってるだろ」

「う……」

「お前が男と話すの苦手なのは知ってるけどな、これも良い機会だと思って、その癖直せ」

「なんとかなりませんか」

「なりません。ハイ、仕事戻れ」

部長はそう言って、その場に立ちすくむ私を残し、自分の席へと戻っていく。



……今度の異動で、鬼課長が来て、新入社員の男の子が来て、更にその男の子の教育係?



……無理!!
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