強引上司の溺愛トラップ
……でもやっぱりまだ無理!!


真っ赤になって俯いてモゴモゴする私に対して、課長は小さく笑った。

「悪かったよ、困らせて。ちゃんと待つから」

そう言って、急に席を立つ。


「え? もう戻るんですか? 時間はまだ……」

「ちょっと仕事が立て込んでるし。十五時に新規案件のことで営業課長と打ち合わせもあるしな。先戻るわ」

課長はいつもの様子でそう言っただけだった。表情も、声色も、口調も、いつも通りだった。
なのに私は、何故か「怒らせてしまいましたか?」なんて、聞いてしまって。


「怒ってる? 俺が? 何で?」

課長は、きょとんとした顔で私を見る。そりゃそうだよね。明らかに怒ってなかったもん。今日は課長の仕事が立て込み気味なことも、打ち合わせがあることも知ってたし。
なのにそんなことを聞いてしまったのは、急に席を立ったのは、私ともう話をしたくないからなんじゃ?って、一瞬でも思って、不安になってしまったから。

そんな小さいことを不安がって、その上『怒ってる?』 だなんて口にして。私、最高に面倒な女じゃないか。


「……ごめんなさい」

私が小さく呟くと、課長はまた小さく笑って、そして身を屈めて私に顔を近付ける。
そして小さな声で。


「それは、俺が怒ってないのに怒ってるかどうか聞いてきたことに対する『ごめん』? それとも、エッチはまだしないことに対する、『ごめん』?」

意地悪気な顔で、囁くように恥ずかしいことを聞かれ、私はまた顔を赤くするけど。
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