強引上司の溺愛トラップ
「佐菜は昔っからネガティブなんだよ。もっといいように考えてみ」

「いいよう?」

「たとえばさ、異性は苦手だけど本当は彼氏欲しいんだって前に言ってたじゃん。その新入社員の男の子に仕事教えてるうちに、もしかしたらそういう関係になれるかも、とか」

私は思わず麦茶を吹き出しそうになり、右手で口元を押さえた。


「あ、ああありえないよ! 新入社員だよ! 四つも年下だよ!」


私は慌ててそう言うけど、お母さんは、

「あら。四つ年下なら全然アリじゃない?」

なんて言う。

そして再び早太くんが。


「まあ、悪いことばっか考えてるよりは、いいように考えた方がいくらか楽しくなるだろ? つまり、そうだな、今度異動してくる男の子が、佐菜の『理想の男の子』だとして、その子はどんな子だ?」



私の、理想の男の子……?




「……えーと。


背は、高過ぎる人よりは割と低目の人が好きなんだよね。

顔は、カッコイイ人よりは、アイドルみたいな可愛い感じの顔の人が好きで。


性格は、優しくて爽やかで真面目な人。

スポーツもやってるといいなぁって思う。


で、名前は『○也』って人がいい」

「○也? 何で」

「いや意味はないけど。何か男の子っぽい」


まぁ、どんなに理想トークをしたところで、私みたいな人間が、そんな自分にとっての王子様みたいな人と話せる訳がない。ていうかそもそもそんな人が、都合よく異動してくるわけがない。



……でも確かに、ネガティブなことを考えてるだけよりは、たとえありえないことだとしても、こうして夢を見た方が楽しいような気はしてきた。



「妄想も悪くないね。じゃあ、せっかくだから○也くんとの理想のシチュエーションも考えてみるよ。


まず、新入社員としてうちの課に配属され、私の後輩となった『○也』くんは、人見知りで上手く話せない私のことを理解してくれ、いつも優しい温かい笑顔で見守ってくれます。

やがて共通の趣味の話題とかがきっかけで親密になっていき、デートを重ねます。

そして、自然とお付き合いが始まっていくのが理想」


私にしては珍しいポジティブ発言を、ペラペラと饒舌に話していく姿に、家族はもしかしたら多少なりとも驚いたかもしれない。

私も、自分自身に微妙に驚いた。自分って、思ってたより妄想家なのかもしれない。



でも。


「佐菜の趣味ってゲームじゃん。パズルゲームとかモンスター倒すやつとかのアプリゲーム。『○也』はスポーツが趣味なんだろ? もう矛盾してない?」

という、神くんからのツッコミを受け、私は

「確かに」

と返すしかなかった。所詮は曖昧な妄想で、あまりちゃんと考えてはいなかった。
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