強引上司の溺愛トラップ
そんな会話をしていると、不意に日路くんが、

「そう言えば、佐菜の職場って毎年この時期に移動の発表なかったっけ? 佐菜は特に異動なし?」

と私に尋ねてきた。

妹の職場の異動の時期まで覚えているなんて、さすが日路くんである。日路くんは私たち兄妹の中で、いや家族の中で一番記憶力がいい。



感心すると共に、異動という嫌なワードが再び頭の中を占め、ブルーな気分になる。



「そうなんだよ。課長が代わって、あと四月に入社したばかりの子がうちに来るんだって」


私がそう答えると、お母さんが心配そうに言う。


「えぇー。課長さん代わっちゃうの? 優しい人だって聞いてたから、お母さん安心してたのに」

「次に来る課長は超怖いらしいよ」

「えぇ〜」

お母さんはまるで自分のことのようにショックを受けている。お母さんは、常日頃から私が職場でパワハラやらセクハラやらを受けていないかを非常に心配している。ちょっと過保護だけど、気持ちはありがたい。



ただ、今の私を憂鬱な気分にしているのは、鬼課長が異動してくることだけではなく。


「私、新入社員の男の子の指導係になっちゃって。ちゃんと教えられるかすごい不安。どうしよう」


冷静に想像してみても、私が指導係をバリバリこなしている姿はまったく想像できない……。


私はまた、不安にかられる。



「吐きそう」

思わず、呟くようにそう言うと、早太くんが明るい声で。
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