契約結婚の終わらせかた番外編集



ちなみに、花子がメスの赤い出目金。太郎がオスの黒い出目金。去年の夏祭りで私と伊織さんが共に掬った金魚だ。


あれ以来伊織さんがほぼ一人でお世話をしてる。温泉への家族旅行で、二匹が車の助手席だったのは今も複雑な思いがありますけどね。 人間として。


つまり、伊織さんは太郎と花子を我が子のようにかわいがってる。目に入れても痛くないってのはああいうのを言うんだろう。


そんな大切な家族の一員に一大事があれば、私も心配になってくる。青ざめた伊織さんが少しは安心できるよう、彼の握りしめた拳をそっと手のひらで包みこんだ。


「花子に何がありました? ゆっくりでいいので話してみてください」


落ち込んだ様子の伊織さんに微笑みかけると、彼はゆっくりと顔を上げて「ああ」とうなずいた。


「数日前から違和感はあったんだ。だが、昨日からは確かにはっきりと出ていた。あらゆる手を尽くしてみたが、今朝やはり花子の体はおかしいままなんだ」

「花子の体がおかしいんですか?」

「ああ……異様に膨らんでいる。いくら餌を食べたとしても、あれほど膨らむのは異常だ。太るにしても急すぎる……」


花子の体が膨らんだ? 空気でも吸いすぎた……って。肺呼吸でもないのにそれはないか。


2人でいろいろと考えてみるけど、原因や対策は何も思い付かない。強いて言うなら素人なりに伊織さんがしたことは全て無駄だったから、何も知識がない私が考えても改善策は見つからないわけで。


「獣医さんに……というか、出目金を見てくれる獣医さんっているんでしょうか?」

「近隣遠方手当たり次第に電話したが、魚は診ないと言われた」


明らかに落ち込んだ伊織さんが何だかかわいそうで、私は彼を励ますつもりで言った。


「大丈夫、私も調べてみますから。一緒に頑張りましょう。一人より2人の方がまだ何とかなりますよ」

「……そうだな」


ほんの少しだけど、伊織さんが笑ってくれてほっとした。


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