契約結婚の終わらせかた番外編集
(へえ、出目金って泳ぎが下手なんだ。初めて知った)
あまり数はないから、飼育本全てをパラパラと捲って探してみた。
出目金は金魚のいち種類で、泳ぎがゆっくりだとか。餌を食べるのが上手くないとか。初めて知ることも多くて勉強になる。
(今まであんまり関心が無さすぎたかな。伊織さんに任せっぱなしで……たとえ金魚でも、大切な家族だからもっと真面目に考えないと)
去年の藤祭りで初めて関心を持った伊織さんは、夏祭りの金魚すくいで掬った二匹をとても大切にしてる。きっとそれはただのペットというだけでなくて、子どもの頃に経験できなかった思い出の貴重な証拠だから。
海水浴と夏祭りと花火……あの1日は伊織さんが子どもに帰れたんだと思う。辛い過去を上書きできる、何でもなくても大切で幸せな記憶。だから、太郎と花子に対する思い入れは人一倍強い。
伊織さんにとって、他の出目金では代わりにならない。あの日あの時あの場で……自分の手で手に入れたからこそ、大切な存在。
だから。花子になにかあれば伊織さんは相当なダメージを受ける。今は治まってる胃潰瘍も再発するかもしれない。
(……私も、もっと真剣にならなくちゃ)
私にとっても、太郎と花子は欠かせない家族の一員。心配になるし、何とかしてあげたい気持ちもある。
参考になりそうな本を二冊ほど選んで、支払いを済ませるとその本を持ったままおはる屋へと向かった。