糠床日記

emerger

出会い系サイトをやっている私と同じくらいの歳の女性が主人公の映画を、友だちと見た。
冒頭のあるシーンで、主人公の部屋に友人が訪ねてくる。ふと床に置かれたノートPCを見ると、画面には出会い系サイト。
「あんた…こんなのやってるわけ?」
台所から飛んできた主人公はPCをバタンと閉じて、
「ほっといてよ!」

あそこはベタだったねえ、と、見終わってお茶しながら私たちは話していた。
「でもベタなことって、けっこう現実にはたくさん起こってるよね」
と彼女が言うので、
「たとえば?」
私は尋ねた。
彼女がちょっと目を反らしたので、なにか後ろめたいことでもあるような風に見えたけど、実際は、窓から渋谷の雑踏を見下ろしただけで、たぶん行き交う人を眺めながら、これまでに見聞きしたことのあるベタなエピソードを、

「出会い系やったことある?」
「あるよ」
「えっウソ」

不意の質問、
反射で即答、
彼女は驚愕、
わたし赤面。

言わなくていいことをなぜこんなタイミングで言ってしまったのか、その時はわからなかった。
いまこうしてベッドの中で思い返してみて、理由がひとつ見つかった。
あの映画の主人公は、出会い系をやっていても、それでも汚ならしくは見えなかったんだ。美しく立っていたもん。だから。大丈夫だよって。

「詳しく聞くまで帰らないから!」
彼女(映画の主人公じゃなくて私の友だちのほう)の好奇心に火がついちゃったのが、ちと面倒。
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